検証が大事って話。「こだわる」ってどういうことか

私たちは「福祉建築」を掲げ、お客様一人ひとりに寄り添った設計をしてまいります――
言葉にすると、抽象的で上滑りして聞こえてしまうことも多いのですが、私たちは日々、大真面目にこの言葉と向き合っています。
毎日終礼に唱和する社是は下記のとおりです。
「私たちは健康で安全な生活環境を創造することにより、社会に貢献します。」
「私たちはお困りごとを解決するプロを目指します。」
「私たちはお互いに切磋琢磨し、常にコミュニケーションをとり共に成長していきます。」
「これって本当にやっているの?」そう疑問を持つことは最もなことだと思っています。
そして「もちろんです。」と自信をもって答えられることに私たちの誇りがあります。
さてさて、今回はいつもと違って自分語りのような内容になってしまいますが、お時間のある方はぜひお付き合いくださいませ。
感覚だけで終わらせない「検証する」こだわり

「こだわりがある」って聞くと、なんとなく「いいこと」のように思えます。
でも、そのこだわりは「なぜそうしているのか」を説明できるでしょうか?
理由を持たないこだわりは、ただの習慣や思い込みになってしまうこともあります。
例えば、素材を選ぶときに「木が好きだから」「この色が落ち着くから」と感じるのは自然なことです。
これがぴったり自分の感覚に合うと、とっても心地よい空間になります。だから、この感覚ってとっても大事。
でも、「心地よい空間」を裏付けるために、実際の使い心地や耐久性、日々の手入れのしやすさなどを検証してみましたか?
その検証の過程があると、「感覚で終わらせない本物のこだわり」になります。
お風呂に入るときは右足から入りますか?左から入りますか?

実はこのセクションのタイトルの「お風呂に入るときは右足から入りますか?左足から入りますか?」という言葉、入社して最初に、社長から必ず言われる言葉です。
想像してみてください。皆さんはどちらの足から入って、どこに手をついていますか?
人は日常の中で、無意識の「習慣」をもっています。この「なんとなく」の積み重ねでできた習慣を普段は意識をしません。
けれど、バリアフリー設計の現場では、その「なんとなく」がとても大切です。
――動き出す向きや体のバランス、どちらの手をつかうか?目線はどこ?体を支えている人はどこに立っている?
これらを注意深く観察することが、私たちの仕事の第一歩です。
また、毎日の動作をする場所には、必ず痕跡が残っています。
――手をつく場所の壁紙がすれている、その場所だけ空間が開いている、踏み台が置いてある、5mmくらい床が浮いている場所がある。
私たちは、「なんとなくの習慣の動き」と「部屋の中に残る痕跡」、「一緒に住んでいるご家族や介助者のお話」から仮説をつくり、検証をすることによって、設計や施工が変わると考えています。
一番言いにくいのは「ちょっと○○して」
話は少し変わりますが、過去、身体に不自由がある方とお話しした際、「一番困ることは、なんですか?」と聞いたところ、「ちょっと○○して」が一番言いづらいとおっしゃっていました。
「テレビに重なってしまうから、ちょっとそのペットボトルどけてよ。」
例えば、車いすで生活していると、机の上の奥の方に置いてあるものは取りづらいことがあります。
この場合、車いすを移動させて机の反対側に回り込んでから物をとる、という動作になります。
自分でどうしてもできないことは、お願いしやすい。でも、「ちょっと我慢すればいい不便」は言いにくいのだそうです。
日常の会話としては些細なことですが、この申し訳なさのような「何か」をどうやったら解決できるのか。ここが、いつも私たちが大事にしているポイントです。
介助の負担を軽減するためのプランを考えるとき、車いすに乗る、お風呂に入る、トイレに行く、ベッドで寝る、といった大きな動きは、実際にやってもらって検証をするのでわかりやすいのですが、この「ちょっと○○して」はなかなか見えづらいのです。
でも、これをなんとかすることがプロの仕事だと私たちは考えています。
現場の様子。 -検証中-

家の出入りをするときに、段差がある。よくある相談事です。
車いすを利用して生活する場合、段差があるとそれだけで家の出入りが難しくなってしまいます。
上の画像のお客様は、高低差の大きい玄関からの出入りをやめ、家の裏口から出入りをしていました。
しかし、家の裏口にも段差があったため、介助する人に負担を考えて裏口の方に車いす用スロープの作成したいとのご希望でした。
実際に現場を見に行ってみると、確かに裏口に段差があり、これを人を抱えてまたぐのは大変そうです。
スロープを作る場合、建築基準法では勾配が1/9、バリアフリー法では勾配が1/12とされています。
しかし、その段差を越えるためにスロープをつくるとなると、車いすで移動するには勾配が急になってしまう可能性がありました。
さて、どうしよう。そう考えた担当者は、本当にスロープが作成できるどうか、スロープを仮作成して勾配を確認することにしました。

まず、実際の段差の高さを再現した台を建築現場で出た木材の端材を活用して、1,2時間ほどかけて、担当者が作成します。
作成した台に可搬式のスロープをかけ、なるべく実際の環境に近づけたスロープをつくりました。

この仮作成したスロープを使って、
- 自分で車いすを押してスロープを上がれるか
- 奥様が車いすを押してスロープを上がれるか
- ヘルパーさんが車いすを押してスロープを上がれるか
をそれぞれ確認します。
結果的に、
- 自分や奥様が車いすを操作する場合はスロープを上がりきれない
- ヘルパーさんが車いすを操作する場合は、スロープが上がりきれる
という結果になりました。
「どうしますか?」とお客様に聞いたところ、実際の生活では「ほぼ、ヘルパーさんが車いすを操作して家の出入りをする」とのことでしたので、今回はスロープを作成することになりました。
実際に体験してみることで、どんなものができるかイメージがつきやすかったようで、とても喜んでくれました。
こういったことの積み重ねが、「一人ひとりに寄り添った設計・施工」の土台になっているのです。
「こだわり」と「自己満足」は紙一重
ただ、こだわりは、突き詰めすぎると「自分だけの正解」になりがちです。
「あなたのために」と考えたことが結果的に裏目にでてしまう、ということは、よくあることかと思います。
私たちがつくったものが、「自己満足」になっていないか。答えを知っているのは、お客様だけです。
私たちは、施工したものを使っていってどうだったか、そういったフィードバックをもらいながら、ノウハウを積み上げてきました。
本当のこだわりとは「相手にとってどうか」を確かめ続ける姿勢です。
相手が心地よいと感じるという結果に結びついてこそ価値があると考えています。
仮説を立てて、検証する。それがプロの「こだわり」
プロの現場では「これが正解」と言い切れることはほとんどありません。
状況や環境が違えば、最適解も変わるからです。
だからこそ、まずは仮説を立てる。
「この高さがちょうどいいのでは」「この素材なら滑りにくいのでは」
そして実際に検証する。
結果をみて、再び修正し、また確かめる。
その繰り返しが、確かな「こだわり」を育てていきます。
こだわりとは、「譲れない思い」ではなく、「確かめ続ける姿勢」。
感覚を越え、検証を重ねた先にこそ、本物の「使いやすさ」と「美しさ」が宿ります。
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